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高松高等裁判所 昭和31年(う)333号 判決 1956年9月22日

控訴人 吉本賢二 外一名

弁護人 後藤吾郎 外一名

主文

原判決を破棄する。

本件を原裁判所へ差戻す。

理由

本件控訴の趣意は被告人吉本賢二の弁護人後藤吾郎並に被告人山崎保夫及び同被告人の弁護人近藤勝各提出にかかる控訴趣意書に記載の通りであるからここにこれを引用する。

よつて記録を精査するに、原裁判所が被告人等に対する窃盗被告事件につき審理を為し昭和三十一年六月四日その判決の言渡をしたことは原審第三回公判調書の記載により明らかである。然るにその判決書を見出し得ないことは両弁護人所論指摘の通りであり他に判決書が存在することを窺い知る何等の証左もないから原審に於ては判決の言渡をしたのみで遂に判決書は作成されなかつたものと認めるの外はない。而して判決の言渡をしたときは地方裁判所家庭裁判所又は簡易裁判所に於ては上訴の申立がなく且つ判決宣告の日から十四日以内に判決書の謄本の請求がない場合にいわゆる調書判決とすることができる以外判決書を作らなければならないことは刑事訴訟規則第二百十九条第五十三条の明定するところであるのみならず、判決書の存在しないことにより原審が果して如何なる内容の判決をしたのかこれを知ることができないのである。従つて原審が判決書を作成しなかつたことは訴訟手続に法令の違反があり且つその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れず弁護人の論旨は理由がある。

よつて被告人山崎保夫の控訴趣意に対する判断を為すまでもなく原判決は刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百七十九条によりこれを破棄し、同法第四百条本文により本件を原裁判所に差し戻すことにする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 渡辺進)

被告人山崎保夫の弁護人近藤勝の控訴趣意

本件の記録によれば被告人に対し昭和三十一年六月四日判決宣告があつたことは第三回公判調書によつて認められるが判決書も調書判決も全然存在しないのでその内容を知ることができない。刑事訴訟規則第五十三条によれば決定命令以外の裁判即ち判決をするときは判決書を作らなければならない趣旨を定められこの規定の趣旨は判決宣告のときまでに判決書を作成しなければならないものではないと解すべきであるとしても宣告後も宣告通りの判決書が必ず作成せられなければならないことは素より当然のことである。従つて判決の宣告はその宣告通りの判決書の存在が判決宣告の有効条件であつて判決宣告後判決書が作成せられなければ判決宣告はその効力がないものと解するのが正当である。仍て本件は原審へ差戻し更に判決がなされなければならないものであると思料いたします。

被告人吉本賢二の弁護人後藤吾郎の控訴趣意

被告人は窃盗被告事件の為め原審である高松地方裁判所丸亀支部に於て懲役八月の判決を宣告されたのであるが右判決は左の如き違法があるから破棄差戻しを免れないものと思料する。

其の理由は、被告人が昭和三十一年六月四日原審法廷に於て野田裁判官より懲役八月の判決を宣告されることは公判記録上明確であるが同記録には判決書が存在しない、勿論判決の宣告には判決主文の朗読と同時に理由の要旨を告げればよいのであつて其の際必ずしも判決書の作成を要するものではないが刑事訴訟規則第五十三条乃至第五十五条は判決書の作成を規定されて居るのであるから原審公判記録に判決書の存在しないということは其の理由の如何を論せず訴訟手続上の法令違反があると言わざるを得ない。而して控訴審は判決書によつて判決の内容を調査検討しなければならないのであるから判決書の不存在ではその内容を知ることができない、斯る訴訟手続上の法令違反は判決に影響を及ぼすものと解すべきであるから原判決は破棄を免れないものと思料する。

(被告人山崎保夫の控訴趣意は省略する。)

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